村上春樹「色彩を持たない…」を読んで思うこと。
巷に村上春樹賛辞があふれている。
最新作の「色彩を持たない…」の大ヒットは、不景気が続く出版界のなかで久しぶりに明るい話題となった。
雑誌が売れず、去年ミリオンセールスを記録したのは阿川佐和子だけという出版不況の中で、何はともあれ喜ばしいことである。
村上春樹は毎年のようにノーベル賞にノミネートされるし、国内だけでなく、英語圏、フランス語圏、ドイツ語、スペイン語、中国語、韓国語など、世界のいたるところで読まれているらしい。
数年前に行った上海で、髪の長いけっこう美形な10代と思しき中国人の女の子が英訳の「ノルウェー」を持って空港の入国チェックの列に並んでいたことも思い出す。
そんな少女を何人も目撃したものだ。
現代文学としての価値云々を超え、東南アジアの諸国では村上春樹の著作を集めることが今やファッション化しているなどとの噂も聞こえてくる。しかも日本語の原作を!
しかし、ここまでブームが来ると長年のファンとしても生来の「へそ曲がり」の気分が立ち上がり、「色彩…」も出版直後に先を争って買い求めることはしない。
あちこちの本屋に在庫がいきわたって、少し落ち着いてから手にすることになる。
どうも、「1Q84」あたりからそんな読者になってしまったようだ。
「色彩…」は、「像・羊系」のファンタジーではなく、「ノルウェー」に連なるような心情ノベルだった。
「アフター・ダーク」ほどつまらなくなく、「カフカ」や「ノルウェー」ほどの深みもなく、まずまずといったところ。
昔はほとんどの著作を夢中になって一気に読んだものだが、最近は読了まで最低1週間はかかってしまう。
自分の中での村上ブームは、少し勢いがなくなっているのか?
それとも、単に自分の読書パワーがなくなってきただけなのか?
あるいは…。